林宣彦監督の新作「野のなななのか」が公開中だ。北海道芦別市を舞台に、死んだ老医師を巡る家族の葛藤や戦争末期の悲話が語られる。2011年の前作「この空の花 長岡花火物語」で観客を驚かせた自在な語り口は、本作でも健在。「エッセーとして撮った。映画は自由な冒険」と語る。
 「なななのか」とは四十九日(七×七日)の意。92歳で死んだ元病院長・光男(品川徹)の葬式に、家族が集まる。そこへ不意に現れては消える謎の女・信子(常盤貴子)。やがて、彼女が光男の孫たちの母親代わりを務めていた過去や、光男との関係、そして、戦争末期にソ連軍が侵攻した樺太で光男が体験した悲劇が、明らかになる。
 回想と現在が交じり合い、生者と死者が同居し、新緑と雪景色が混在する。東日本大震災の発生時刻を物語にちりばめ、会話は戦争、炭鉱、町おこし、震災、原発へ飛ぶ。役者の口を借りた随想かドキュメンタリーのよう。前作よりはドラマの軸がはっきりしているが、奔放で融通無碍(むげ)な展開の2時間51分だ。
 「文字を使った表現だって小説、論文、日記、エッセーといろいろある。一つの物語にまとまった劇映画か、客観的なドキュメンタリーか、なんて枠は商業主義が勝手にはめたもの。アートとしてやれば、何でも自由です」と大林。
 作風の変化は、自身の大病と震災がきっかけという。「2010年、心臓発作で一度死んでよみがえった。そして翌年の3・11。もう従来の劇映画は撮れないと思った。1938年生まれの僕の中で、戦争、原爆、震災、原発、復興、すべてがつながった。それで、意識の流れをそのまま映像にしたエッセームービー2本が生まれたんです」
 反戦の思いと人間賛歌を込めた本作と「この空の花」に、「シネマゲルニカ」と名を付けた。
 「ピカソがリアリズムを超えた子供のような絵で『ゲルニカ』を描いたおかげで、今も我々に戦争の残酷さを訴え続ける作品になった。僕のこの2本も、リアリズムを超えた、横顔に目が二つある映画だと思ってください」(小原篤